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持続可能な土地開発

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開発に不適な土地の開発が、環境破壊・生物多様性の喪失・気候変動・自然災害リスク増大などの問題を引き起こしてきました。これら多様な問題を回避して持続可能な土地開発を実現するには、予め、開発に適・不適なエリアを分けておくことが有用です。そこで、開発の是非にかかわる重要な土地属性に注目して、地域や自治体を開発制限区域と開発許容区域に分ける方法を提示しました。

開発制限区域と許容区域を分ける方法

開発の是非を判断するうえで重要な土地属性には、(1) 生物多様性、 (2) 自然災害リスク、(3) 地形の傾斜度、があります(図1左)。「生物多様性」は、自然保護や環境保全を目指すときのキーワードです。「自然災害リスク」は、自然災害危険エリアを避けるという要求に呼応します。「地形の傾斜度」は、環境保全、インフラ整備の困難さやコスト、人々の移動性、さらには景観とかかわります。

図1に示す戦略に基づいて、地域や自治体を開発制限区域と許容区域に分けます。「開発制限区域」とは、植生除去や建設を含む土地開発を禁止すべきエリアのことです。開発制限区域は、「生物多様性への貢献の大きいエリア」「自然災害リスクの高いエリア」「急傾斜エリア」の和集合、すなわち結合体になります。一方、「開発許容区域」は、「生物多様性への貢献の小さいエリア」「自然災害リスクの低いエリア」「傾斜の緩やかまたは平坦なエリア」の共通エリア、すなわち重複部分となります。

1.生物多様性

生物多様性への貢献の大きいエリアは、「生物多様性にとって重要と認定される地域」と「保全地域」に分けられます(図2左)。今日、これらのエリアがカバーする範囲は着実に増加していますが、さらなる拡大も必要です(図2右)。

(1) 生物多様性にとって重要な地域

生物多様性にとって重要な地域として世界的に最も認知されているのが、国際自然保護連合(IUCN)が主導するKey Biodiversity Areas(KBAs)です。KBAs は、陸上・淡水・海洋生態系において、地球規模の生物多様性の持続性に著しく貢献するエリアとして、国ごとに選定されます。

(2) 保全地域(保護地域・OECMs)

保全地域の中で中心的な役割を果たすのが、国立公園をはじめとする「保護地域(Protected areas)」です。近年は、保護地域に加えて、「その他の効果的な地域ベースの保全手段(Other effective area-based conservation measures, OECMs)」も重視されています。OECMsは、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域のことです。2022年末に合意された国連の生物多様性条約では、「地球上の陸域・海域の30%以上を、2030年までに保護地域またはOECMsでカバーする」ことが目標として掲げられています。

2.自然災害リスク

自然災害リスクの高いエリアは、自然ハザードへの暴露の危険性の高いエリアです。自然ハザードは、気候ハザード(洪水・干ばつなど)と地殻ハザード(地震・火山噴火など)に分けられます。自然災害リスクを減らすには、気候ハザードや地殻ハザードへの暴露リスクの高いエリアを避けることが必要です。

(1) 気候ハザード

気候ハザードは、ある地域が極端気象下にあるときに起こります。たとえば、図3の中央に示すように、豪雨や熱帯低気圧は洪水や地滑りを発生させます。また、乾燥状態や熱波は干ばつや野火につながります。

今日、人為的な気候変動の影響で、気候ハザードの頻度や強度が増加しています(図3左)。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、1950年代以降、熱波・干ばつ・豪雨・熱帯低気圧の強度は増大しており、継続する地球温暖化は、今後さらに気候ハザードを激化させます。海面上昇も加速しています。海面上昇の影響と、熱帯低気圧による風雨の強大化傾向が相まって、沿岸部の洪水リスクはさらに増大します。

図3の右側に示すように、土地利用の検討に際しては、災害リスクを減らすために、気候ハザードへの暴露の削減が不可欠です。たとえば、洪水の危険エリアを避けることは、洪水被害の削減に貢献します。

(2) 地殻ハザード

図4に示すように、主な地殻ハザードに地震と火山噴火があります。津波は、水面下の地震や火山噴火によって発生します。

地殻ハザードへの暴露を削減するには、土地利用に際して、地盤振動・津波襲来・火山噴出物による危険性の高いエリアを避けることが肝要です(図4右)。たとえば津波であれば、将来の危険性を予測して、襲来リスクの高い沿岸低地を避けることが有効です。

3.地形の傾斜度

急傾斜地エリアを開発すると問題につながります。「急傾斜地 (steep slopes)」の一般的な定義はありませんが、世界、とくに北米では、傾斜度15%以上を急傾斜地としている自治体が多くあります。これらの例を参考にして、傾斜地を (1) 緩やか (0-10%)、 (2) 中間的 (10-15%)、 (3) 急 (15-20%)、(4) 非常に急 (20% +)、の4つに分類します(図5左)。なお、図5右に、勾配10%と20%の傾斜地の例を示します。

傾斜地を開発することで発生する問題群は、(1) 植生除去の悪影響、(2) 整地や建設の負担、(3) 移動の困難性、(4) 景観、に分類できます。傾斜地上の植生を除去すると、土砂流出、地滑り、流出水の増加などにつながります。傾斜が大きくなるにつれて、整地や建設工事の困難さやコストが増大します。また、バリアフリーやユニバーサルデザインを取り入れることも難しくなります。さらに、傾斜度が大きいほど開発による景観の変化は目に入りやすいため、急傾斜地の開発はしばしば景観破壊につながります。

一般的に傾斜度15%を超える急傾斜地ではこれらの問題群は深刻化しやすく、開発制限が必要です。とくに勾配20%以上の非常に急な傾斜地では、開発自体を厳しく規制すべきといえます。また、環境的に脆弱な地域や、移動性や景観に配慮する場合は、傾斜度10%から開発を制限すべきといえます。

4.統合:開発制限区域の限定

当該の地域または自治体の「生物多様性」「自然災害リスク」「地形の傾斜度」に関する空間情報を収集できれば、これらを地理情報システム(GIS)に取り込んで地図レイヤーを作成します。「生物多様性への貢献の大きいエリア」については、「重要な地域」と「保全地域」に分けて表示します。「自然災害リスクの高いエリア」に関しては、自然のハザードの種類別に地図レイヤーを作成します。さらに、「急傾斜エリア」を限定するために、傾斜度に応じて色分けした傾斜区分図を作成します。

必要な地図レイヤーを準備した後、これらを重ね合わせて地理情報を統合します。この場合、各地図レイアーに表示された当該エリアの和集合、すなわち結合体が開発制限区域に相当します。

関連出版物

藤平和俊. 持続可能な土地開発の方法:東京都稲城市への適用. 環境学研究所. 2024.

Fujihira K. Sustainable Land Development: Biodiversity, Natural Disasters, and Topographic Gradient. IntechOpen. 2023. DOI: 10.5772/intechopen.110235

藤平和俊. 持続可能な土地開発:生物多様性・自然災害・地形の傾斜度. 環境学研究所. 2023.

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