環境学研究所、持続可能性、持続可能な発展、サステイナビリティーの研究・教育、藤平和俊

稲城エコハウス

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「持続可能な住宅研究」に基づいて、実際に戸建住宅をデザインしました。この住宅は東京都稲城市内に建設され、「稲城エコハウス」と呼ばれています。稲城エコハウスは、「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)戸建認証」で最高等級の☆☆☆☆☆、「LCCM(ライフサイクル・カーボンマイナス)住宅認定」でも最上級の☆☆☆☆☆の評価を受けました。「長期優良住宅」の認定も受けています。また、徹底的な省エネルギーと太陽エネルギー利用によって、エネルギー自給率は驚異の500%を実現しました。
「稲城エコハウス」は、2015年、第6回サステナブル住宅賞において一般社団法人 日本木造住宅産業協会会長賞を受賞しました。


概要

稲城エコハウスは、延床面積 約123m2の木造2階建て住宅です。南側に向いた片流れ屋根に、総出力11.4kWの太陽光発電システムを設置し、自然エネルギーを最大限に活用しています。ソーラーパネルを屋根材ではなく野地板の上に載せ、屋根の軽量化と一体性を図っています。
外壁は耐火性に優れた窯業系サイディング、外装建具は耐久性と断熱性の両方に優れるアルミ・樹脂複合サッシを用いています。 バルコニーと屋根の軒の出が、南面の窓に夏の強い日射が当たるのを防ぎます。シンボルツリーとして植えた落葉樹のアオダモも、夏、階段室に強い日差しが入るのを防ぎます。

バリアフリーにも最大限の配慮をしています。前面道路から玄関ポーチへとつながるアプローチはスロープです。玄関出入口は引戸としつつ段差をなくしました。室内各室の出入口もすべて引戸で段差なしです。
居室はどの部屋も南側に大きな窓があり、明るく気持ちよい空間です。屋内空間を取り囲む断熱材や窓などはいずれも断熱性能・気密性能に優れているため、住宅内の温度は全体的に安定しています。冷暖房にはエアコンを用いていますが、冬期と猛暑期にわずかに運転する程度です。

住宅内で使用する機器類はすべてエネルギー利用効率の高い製品です。給湯機は電気ヒートポンプ式、照明はすべてLEDです。エアコンや冷蔵庫、テレビなども、省エネ性能最高レベルの製品を採用しました。
その他、住宅の持続可能性を高める配慮は随所にあります。フェンスは、プライバシー、防犯、通風に配慮するとともに、エアコンの室外機も隠しています。容量200リットルの雨水タンクを設け、植栽への水やりはほとんど雨水でまかなっています。屋根への降水は、雨水タンクに蓄える以外は、浸透桝を用いて地中浸透させています。 構造躯体は、日本住宅性能基準の耐震等級3を満たしています。これは、建築基準法の要求する耐震強度の1.5倍に相当します。また、構造材の過半に、持続可能性が証明された国産材を用いました。

エネルギー自給率500%

稲城エコハウスは、南面に向けた屋根のほぼ全面にソーラーパネルを設置し、太陽エネルギーを最大限に活用しています。また、徹底的な省エネルギーによって、世帯人数が同じ標準的な戸建住宅と比べて、エネルギー使用量は約30%と非常に少なくなっています。その結果、太陽光による発電エネルギー量は住宅内のエネルギー使用量の約5倍となり、エネルギー自給率500%を実現しました。

CASBEE認証・LCCM認定

2014年8月、本住宅は、CASBEE戸建評価の認証を受けました。CASBEE(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiencyの略)は、国土交通省の主導により開発された、建築物の環境性能を総合的に評価するシステムです。CASBEEの評価は、Q1=室内環境を快適・健康・安心にする、Q2=長く使い続ける、Q3=まちなみ・生態系を豊かにする、LR1=エネルギー・水を大切に使う、LR2=資源を大切に使いゴミを減らす、LR3=地球・地域・周辺環境に配慮する、という6項目の評価に基づいて算出します。総合評価は環境効率(BEE値)で表され、「Sランク(素晴らしい)☆☆☆☆☆」「Aランク(大変良い)☆☆☆☆」「B+ランク(良い)☆☆☆」「B-ランク(やや劣る)☆☆」「Cランク(劣る)☆」の5段階に格付けされます。
稲城エコハウスの評価結果は、一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構のウェブページ および一般財団法人ベターリビングのウェブページ で公開されています。評価の要点は、下図左に示すように、環境効率(BEE値)が6.7と非常に高く、格付けは余裕をもって“Sランク”となりました。Q1=4.4、Q2=4.6、Q3=4.6、LR1=4.7、LR2=4.0、LR3=4.6、といずれも4点以上の高スコアになっています。これらの数値は、環境品質(Q)および環境負荷低減性(LR)の両方に優れていることを証明しています。

CASBEE戸建認証に続いて、「LCCM(ライフサイクル・カーボンマイナス)住宅認定」も受けました。LCCM住宅とは、「住宅の建設から運用、さらには解体に至るまでのライフサイクル全体でCO2排出量をマイナスにした住宅」のことです。認定のためには、CASBEE評価が「Sランク」または「Aランク」であることが前提になります。認定区分は「☆☆☆☆☆」と「☆☆☆☆」の2つですが、上の定義に合致するのが「☆☆☆☆☆」の方です。 稲城エコハウスのライフサイクルCO2は、上図右にあるように、一般的な住宅(参照値=100%)と比べて「マイナス35%」です。その結果、LCCM住宅認定区分も余裕をもって「☆☆☆☆☆」となりました。ちなみに、LCCM住宅認定区分「☆☆☆☆☆」の住宅は、2014年10月末現在、全国に当住宅を含めて12戸あります。東京都では、この稲城エコハウスが第1号になります。

サステナブル住宅賞

「稲城エコハウス」は、2015年、第6回サステナブル住宅賞において一般社団法人 日本木造住宅産業協会会長賞を受賞しました。
サステナブル住宅賞は、一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が主催して隔年に実施される住宅設計競技です。顕彰されるのは、居住環境の豊かさと環境負荷低減の両方に優れた戸建住宅です。
第6回サステナブル住宅賞では、7人の大学教授を含む11人の専門家で構成される審査委員会が、46の応募作品を審査しました。審査の結果、稲城エコハウスは、「一般社団法人 日本木造住宅産業協会会長賞」を受賞しました。
講評によれば、さまざまな工夫によって、ひときわ高いエネルギー自給率や省エネルギー性能を実現したことがとくに評価されています。また、「CASBEE戸建」(による)評価で住まいの環境効率を示すBEE値が極めて高いこと、ライフサイクル・カーボンマイナス☆☆☆☆☆住宅として認定されていることも評価されました 。

 

関連著書

Sustainable Home Design by Applying Control Science

著者:藤平和俊 / 出版社:InTech / 2017年12月刊行

第5章
Case Study: Detached House Designed by Following the Control System
第6章
Discussion and Conclusion: Effectiveness, Characteristics and Future Prospects of the Methodology

 

Complex Systems, Sustainability and Innovation

編集:Thomas, C./ 出版社:InTech / 2016年12月刊行
[所収論文] 著者:藤平和俊

System Control for Sustainability: Application to Building Design

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