環境学研究所、持続可能性、持続可能な発展、サステイナビリティーの研究・教育、藤平和俊

研究の経緯

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環境学研究所は、19997年の発足以来、つねに本質的かつ独創的なアプローチで、環境とサステイナビリティーの課題に取り組んでいます。

人間とは何か?:根源的な問いからの出発

1999年、環境学研究所代表の藤平和俊は、最初の著書『環境学入門』を出版しました。その第1章「人間を捉えなおす」は、「人間とは何か?」というきわめて根源的な問いに迫りました。その背景には、「人間が存在しなければ環境問題は起こらない。それでは、環境問題の原因者である人間とはどのような存在なのか?」という問題意識がありました。『環境学入門』は、現代の科学的知識を総合して、次のように人間を再定義しました。人間とは、目的意識をもって環境に働きかけうる動物である。なお、ここで「環境」という語は、自然環境と社会環境の両方の意味を含んでいます。

人間活動の加速度的増大が迫る新たな「目的」の設定

さらに『環境学入門』は、人間活動の歴史をダイナミックに捉えなおしました。自然環境に働きかける道具や技術の発達、社会環境に働きかける情報伝達手段の進歩、および働きかけの主体数である人口の増加は、3者が相乗的に作用し合うことで次第に人間活動の増大を加速させていきました。とくに20世紀には、人間活動の増大は爆発的という様相を呈しました。その結果、人類は、地球環境と天然資源の有限性を強く認識せざるをえなくなるとともに、経済格差の拡大のような社会問題にも直面しました。

ここに至って、従来の野放図な人間活動は急速に見直しを迫られます。すなわち、『環境学入門』の最終章が記すように、"有限の地球上で、人間が、その活動を適正状態に制御する"ことが、重要な目的となってきたのです。なお、ここに出てくる「適正状態」は、「持続可能な発展」あるいは「持続可能性(サステイナビリティー)」と言い換えることができます。

持続可能性の課題に「制御」の科学を応用

「人間活動を持続可能な発展に向かって制御する」という課題に対して、2001年、環境学研究所は新たなアプローチ方法を着想しました。「制御」を専門的に扱う科学を応用することです。制御の科学は、あらゆる目標志向の課題に適用可能です。実際、工学、経済学、農学、医学などさまざまな分野に応用されています。とりわけ制御工学は、長い歴史をもつとともに、多くの優れた成果を生み出しています。よって、制御の科学を持続可能な発展の実現という課題に応用することは、合理的で信頼性の高い方法であるといえます。

本研究所が、制御の科学を持続可能な発展の課題に応用するために最初に取り組んだことは、持続可能な発展のための基本制御系を明示することでした。また、制御の目的となる持続可能な発展についても、持続可能な発展のモデルを提示することで、その本質を明確にしました。

ESD・環境教育研究

本研究所が続いて取り組んだのが、持続可能な発展のための教育に「制御」の科学を応用することです。教育の分野では、「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development, ESD)」という表現が多く用いられています。なお、環境問題の解決・予防を意図する環境教育は、ESDの中でも重要な位置を占めています。

人間活動を制御するには「行動変化」が必要であり、人間には行動変化を可能にする能力と意欲が求められます。制御の科学を応用するアプローチでは、持続可能な開発につながる行動変化を可能にする能力と意欲を高めるのがESDの役割だと捉えます。その上で、このような能力および意欲を高める方法をESDの方法論としてまとめました。

本研究所は、このESDの方法論に基づいた教育実践にも力を入れています。なかでも、環境保全とエネルギー資源の持続的利用を目指すエネルギー環境教育実践では、独自に作成したプログラムに基づいて多数の教育実践を行いました。教育実践の結果は顕著な教育効果を示しており、このESDの方法論の有効性を証明しました。

制御系の設計研究

制御系の課題は、「制御方策」、すなわち制御目標を達成するための方策、を計画・実行することです。この制御方策を計画・実行するまでの一連の過程は、「制御系の設計」と呼ばれます。2008年以降、環境学研究所は、持続可能な発展のための基本制御系にもとづいて、持続可能な発展のための実際的な制御系を設計する研究を進めています。

制御系設計研究の重要な一歩として、「円滑な制御系設計のための2段階の方法」を考案しました。第1段階で「基準となる人間活動と持続可能な発展との関係を決定」し、第2段階で「対象となる人間活動のサステイナビリティー診断」を行います。

持続可能な住宅研究

「持続可能な発展のための基本制御系」と「円滑な制御系設計のための2段階の方法」を応用して、サステイナブル・デザインを普及促進する研究を進めています。とくに住宅を対象にした「持続可能な住宅研究」を展開しています。まず、「持続可能な住宅設計指針」と「持続可能性チェックリスト」を組み込んだ「持続可能な住宅を普及促進するための制御系」を策定しました。この制御系に沿うことで、新築住宅と既存住宅の両方にサステイナブル・デザインを効率的に取り入れることができます。

稲城エコハウス」は、この制御系に沿って設計された戸建住宅です。ひときわ高い省エネルギー性能やエネルギー自給率をはじめ、随所に高いサステイナビリティー性能を体現しています。

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