環境学研究所、持続可能性、持続可能な発展、サステイナビリティーの研究・教育、藤平和俊

持続可能な住宅研究

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持続可能な住宅を普及促進するための制御系

「持続可能な発展のための基本制御系」を応用して、『持続可能な住宅を普及促進するための制御系』(図1)を策定しました。図の上方は理論的世界、下方は実践的世界をそれぞれ表しています。

「外乱」とは、環境・社会・経済問題に起因して人間活動に悪影響を及ぼす因子のことです。地球温暖化・気候変動に由来する悪影響はその代表例です。外乱から「持続可能な発展」に向かう経路は「適応」を表します。

「目標値」は、制御目的である「持続可能な発展」から導きます。一方、「制御変数」は、制御対象に関係して、基本的には問題の解決・予防のために、あるいは外乱への適応のために、制御すべき変数のことです。なお、この制御系の制御目標は、制御変数を目標値に一致させることになります。

実践的世界では、「新築住宅」と「既存住宅」の両方が制御対象になります。「設計関係者」としては、住宅オーナー、デザイナー、建築家、住宅施工者などが想定されます。設計関係者は、「持続可能な住宅設計指針」と「持続可能性チェックリスト」を用いて、制御変数を目標値にできる限り一致させるようにします。設計指針とチェックリストは、両方とも「要素-変数-目標値」という構造をもっています。ただし、チェックリストは、測定または推定された変数を目標値と比較しやすくして、制御変数を見つけやすいように作成されています。

(1)新築住宅の場合
対象が「新築住宅」の場合、目標値に関する情報は「持続可能な住宅設計指針」を介して設計関係者に届きます。設計関係者は、住宅の各「要素(部位)」の「変数(項目)」ができる限り目標値に達するように、設計図書を作成します。設計過程の重要な段階では、「持続可能性チェックリスト」を用いて、設計図書をチェックします。

(2)既存住宅の場合
対象が「既存住宅」の場合、一連の流れは、対象となる住宅の"インスペクション"から始まります。設計関係者は、各要素(部位)の変数(項目)の状況を調べて、「持続可能性チェックリスト」の「測定・推定値」欄に記入します。次いで、測定・推定値を目標値と比べて、比較結果を評価欄に記入します。測定・推定値が目標値に達していれば"○"、達していなければ"×"といった具合に記入します。ここで、"×"のついた変数(項目)が制御変数になります。

インスペクション実施後、通常、設計関係者は、制御変数(×印のついた項目)が目標値に達するように、改善のための設計図書を作成します。たとえば、開口部(窓・出入口)の断熱性能が低くて目標値を下回っている場合、目標値を達成できるように開口部の改修を設計に含めるわけです。改修設計の重要な段階では、新築住宅の場合と同様、「持続可能性チェックリスト」を用いて、設計図書をチェックします。

最新版 設計指針・チェックリスト

日本の住宅事情や環境条件に即した「持続可能な住宅設計指針」と「持続可能性チェックリスト」を作成し、その後、必要に応じて改訂も進めています。また、「持続可能な住宅設計指針・チェックリスト 活用マニュアル」も作成しました。最新版の「設計指針」「チェックリスト」および「活用マニュアル」は、下記からダウンロードできます。

設計指針・チェックリストの作成・改訂手順

「持続可能な住宅設計指針」および「持続可能性チェックリスト」の作成・改訂手順を整理して1枚の図にまとめました(図2)。図の上方は理論的な世界、下方は実践的な世界、をそれぞれ表しています。

図2の中央列は、設計指針とチェックリストの準備・使用の流れを示しています。まず、システム設計者が、3段階の手順を経て、設計指針・チェックリストを作成あるいは改訂します。続いて、システム利用者が、これらの設計指針・チェックリストを活用します。さらに、設計指針・チェックリストを活用して設計された住宅が居住者によって使用されます。

左列の4つのブロックは、設計指針・チェックリストを作成・改訂する際に参照する項目を示しています。これらの4項目は、時間とともに変化します。一方、右下の2つのブロックは、システム利用者および住宅居住者からのフィードバックを、設計指針・チェックリストの改訂に反映していく経路です。

1. 設計指針・チェックリストの作成手順

設計指針・チェックリストの作成手順は、次の3段階で構成されます。

(1) 住宅に関係する環境・社会・経済問題の特定
システム設計者は、まず、住宅関連問題の理解の動向を調べつつ、住宅に関連する環境・社会・経済問題を特定して住宅関連問題群リストを作成します。問題の特定に際しては、「持続可能な発展のモデル」に示した6つの安定条件(健康・安全・相互扶助・自己実現・環境保全・天然資源の持続的利用)に悪影響を及ぼすかどうかが判断基準になります。なお、世界的・一般的な問題とともに、地域的・特有的な問題も合わせて特定します。

(2) 持続可能な住宅設計への要求の特定
第2段階では、システム設計者は、第1段階で特定した問題に基づいて「持続可能な住宅設計への要求」を特定します。たとえば、第1段階で特定した問題が「地球温暖化・気候変動」であれば、通常、持続可能な住宅設計への要求は、省エネルギー、自然エネルギーの活用、緑地の保全となります。

(3) 要素・変数・目標値の特定
第3段階では、「持続可能な住宅設計への要求」を設計指針・チェックリスト中の「要素-変数-目標値」構造に変換します。この変換によって、住宅のどこをどのように設計するかを明示することができ、実践的な世界で使いやすくなります。

「要素」については、住宅を「物質的要素(構造躯体・外装・開口部・断熱材・内装・配管など)」と「空間的要素(部屋やエリア)」の複合体と捉えた上で、住宅の重要な要素を特定します。また、「持続可能な住宅設計への要求」に応えられるような配慮もします。たとえば、持続可能な住宅設計への要求に「自然エネルギーの活用」があれば、「自然エネルギー利用設備」を物質的要素として加えるわけです。

「変数」については、それぞれの要素と「持続可能な住宅設計への要求」および先に示した「安定条件」との関係を考慮して特定します。一例として「自然エネルギー利用設備」が要素の場合を考えると、「持続可能な住宅設計への要求」である自然エネルギーの活用と、「安定条件」である環境保全および天然資源の持続的利用を考慮します。その上で、指標となる「自然エネルギー利用量」を変数として特定するわけです。

「目標値」については、注目する変数が安定条件を満たせるように設定します。「自然エネルギー利用量」が変数の場合であれば、安定条件である環境保全および天然資源の持続的利用を満たせるように、「住宅内のエネルギー使用量以上」とすることができます。なお、目標値の設定に際しては、住宅関連技術や住宅設計に関係する制度の動向も勘案します。

2. 設計指針・チェックリストの改訂手順

設計指針・チェックリストは、変化する状況への適合、および使いやすさや正確性の向上のために、必要に応じて改訂をします。この改訂作業は、(1)理論的世界の変化、(2)実践的世界の変化、(3)利用者からのフィードバック、の3方向から進められます。

(1) 理論的世界の変化
理論的世界に重要な変化があれば、これらの変化と先に示した6つの安定条件との関係を検討しつつ、住宅関連問題群リストを改訂します。さらに、持続可能な住宅に関する理解の動向も調べつつ、持続可能な住宅設計への要求リストも改訂します。その上で、設計指針・チェックリスト中の「要素-変数-目標値」の改訂へと進んでいきます。

(2) 実践的世界の変化
住宅関連技術や住宅設計関連制度の動向に重要な変化があれば、それらの変化も設計指針・チェックリストに反映します。

(3) 利用者からのフィードバック
図2の下方に示すように、「システム利用者からのフィードバック」および「住宅居住者からのフィードバック」も考慮します。まず、システム利用者から寄せられる意見などの反応は、設計指針やチェックリストの使いやすさや正確性の向上に役立てられます。また、住宅居住者から届く住み心地やサステイナビリティー性能に関する意見や感想も、設計指針・チェックリストの改善に役立てられます。

なお、先に示した最新版の「設計指針」と「チェックリスト」は、上記の改訂手順に沿って改訂したものです。

本手法の特長

本手法の第1の特色は、持続可能な住宅を設計・普及するための総合的戦略の提示です。図1は、新築住宅と既存住宅の両方を対象にして、「持続可能な住宅設計指針」と「持続可能性チェックリスト」を用いた持続可能なデザインの普及促進過程を簡潔に表現しています。図2は、設計指針とチェックリストを作成さらには改訂する手順を流れ図にしてまとめています。これらの可視化によって、持続可能な住宅の設計および普及についての全体的な理解が容易になることが期待されます。

また、「持続可能な住宅設計指針」と「持続可能性チェックリスト」は、「使いやすい」という特長をもっています。設計指針とチェックリストにある「要素」は、住宅の物質的あるいは空間的な部位に相当します。そのため、設計・チェック・評価・インスペクションの各過程で、設計図面や現実の住宅と容易に照合することができます。

さらに、設計指針とチェックリストには「包括的」という特色があります。変数(項目)の選定に際しては、健康・安全・相互扶助・自己実現・環境保全・天然資源の持続的利用という6つの観点から検討しています。そのため、地球温暖化対策・バリアフリー・防災や減災・コミュニケーション・仕事・学習といった今日的な課題も含めて多様な課題に対応できます。

 

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